耳とは

耳は、音を聴くという聴覚と平衡感覚(いわゆる体のバランス)をつかさどる器官のことで、大きく、外耳(耳介から鼓膜の手前までの部分)、中耳(鼓膜から鼓室、耳管の部分)、内耳(半規管、前庭、蝸牛、内耳神経)の3つに分類されます。外耳と中耳は、音を伝達する働きがあり、聴覚としての役割を担っています。内耳は、聴覚として音を感知する働きだけでなく、平衡感覚(体の傾きや回転)を感知する機能もあります。
これら3つの部位でよく見受けられる病気や症状というのは以下の通りです。

外耳で発生する主な疾患

耳垢栓塞とは

原因

耳の中に耳垢(耳あか)が大量に溜まっている状態です。耳垢には2種類あり、乾燥しているタイプと湿り気のあるタイプがあるのですが、日本人のおよそ7割の方が前者といわれています。湿り気のあるタイプの方は自然と詰まってしまうことがあります。また乾燥しているタイプでも耳掃除をしたときに自分で耳垢を奥に詰め込んでしまうこともあり注意が必要です。

症状

聞こえにくさや耳がふさがった感じという症状の原因となることがあります。また無症状の方もいます。

治療

耳垢を専用の鉗子で取り除きます。耳垢を溶かす点耳薬を使用して取り除くこともあり、2~3回通院が必要な場合もあります。

気をつけること

耳垢は耳掃除をしなくても自然と鼓膜から体外へと排出されるため、耳掃除は2週間に1回程度で充分と言われています。耳掃除をする際は、綿棒で耳の入り口を軽くこする程度がよいでしょう。

外耳炎(外耳道炎)とは

原因

外耳道とは耳の穴の入り口から鼓膜までの間のことを言いますが、この間に主に細菌感染が起き、それによって炎症がみられている状態をいいます。
耳かきや綿棒での過度の耳掃除、イヤホンの長時間使用が原因となることがあります。

症状

耳のかゆみや痛み、耳だれ、聞こえにくさです。口を開けた時に痛みを感じたり、頭痛として感じることもあります。

治療

外耳道を清掃し、点耳薬や軟膏などを使用します。症状が強い場合は抗菌薬や痛み止め、抗アレルギー薬の内服を併用します。

気をつけること

耳掃除をすればするほどかゆみが強くなり、また耳掃除をしてしまうという悪循環を繰り返します。まずは耳のかゆみや炎症を抑える薬を使って、耳をなるべく触らないようにしましょう。

外耳道真菌症とは

原因

外耳道の炎症の中でも、原因が真菌(カビ)である場合を、外耳道真菌症といいます。

症状

耳のかゆみや耳のふさがった感じ、聞こえにくさです。

治療

カビには抗菌薬が効かないため、頻回な処置の通院が必要です。洗浄や抗真菌薬を塗って治療します。外耳炎と比べ治るまでに時間がかかることが多いです。

気をつけること

カビなので湿気を好みます。耳だれをそのままにしておくと、外耳道真菌症となることがあります。なるべく早めに耳鼻科を受診しましょう。

中耳(鼓膜や鼓室など)で発生する主な疾患

急性中耳炎とは

原因

鼓膜の内側の鼓室というのは、耳管を通じて鼻腔につながっています。そのため、風邪をひいた際にこの鼻腔から耳管を通って、細菌やウイルスが侵入し、鼓室内で感染すると炎症を起こします。膿が溜まるようになる他、鼓膜も赤く腫れるようになります。これを急性中耳炎といいます。

症状

耳の痛みや耳がふさがった感じ、耳が聞こえにくいといった耳症状のほかにも、発熱、鼻水や鼻づまり、咳といった上気道炎などの全身症状も見受けられます。

治療

軽症であれば経過観察ということもあります。中等症以上であれば、3~5日程度の抗菌薬の投与となります。また重症化している場合は、鼓室内に溜まっている膿を排膿する鼓膜切開術を行います。これによって痛みの軽減や解熱が期待できます。なお鼓膜を切開しても、時間が経てば自然と塞がります。

気をつけること

幼稚園以前のお子さんは痛みをはっきり伝えることができません。急な発熱、機嫌が悪い、耳に手をやるなどのサインを出していることがあります。その際は早めに耳鼻科を受診しましょう。

滲出性中耳炎とは

原因

中耳(鼓室内)に滲出液が溜まった状態をいいます。鼻水がなかなか治らない場合に起きやすい病気です。中耳の圧力を調節している耳管の働きが悪いと、滲出液がたまりやすくなります。そのため耳管の機能が未熟なお子さんは大人と比べて滲出性中耳炎になりやすいです。

症状

難聴や耳のふさがった感じ、耳鳴りなどの症状がみられることがあります。

治療

鼻炎や副鼻腔炎が原因となっていればその治療として抗アレルギー薬や抗菌薬の投与などを行います。3か月以上症状が続く場合や繰り返す場合には、鼓膜を切開したり、鼓膜にチューブを挿入する処置を行います。また、お子さんでは鼻の奥にあるアデノイドの肥大が原因となる場合もあり、レントゲンや内視鏡でアデノイドの状態を確認することもあります。肥大があれば全身麻酔の手術が必要なため、総合病院に紹介致します。

気をつけること

お子さんで鼻をすする癖があると、中耳が陰圧になり、滲出性中耳炎になりやすくなるので控えましょう。大人でみられるケースには、稀に上咽頭(鼻の奥)の腫瘍が原因のこともあります。内視鏡検査で上咽頭をチェックしましょう。

慢性中耳炎とは

原因

急性中耳炎や滲出性中耳炎の治療が十分でなかった、感染による防御機能が低下している、といったことが原因となり慢性化してしまった中耳炎を慢性中耳炎と言います。

症状

鼓膜が穿孔していることが多く、耳だれ、耳鳴り、伝音難聴などがみられますが、耳の痛みや発熱といった症状は現れたとしても軽度です。しかし、内耳にまで炎症が及ぶと感音難聴やめまいが起きることもあります。

治療

基本的には保存的治療となります。耳だれがでていれば、抗菌薬(点耳、内服 等)を投与したり、耳の処置を行うことも有効です。
繰り返す耳だれや難聴を改善させる目的で手術療法を行うこともあります。鼓膜の穿孔を塞ぐために、鼓膜形成術や鼓膜再生療法が行われます。

気をつけること

耳だれを放置していると外耳炎や外耳道真菌症となることがあります。
耳だれに気がついたらなるべく早く耳鼻科を受診しましょう。

真珠性中耳炎とは

原因

鼓膜や耳の皮膚の一部が中耳内に入り込んで袋状になり、そこに角化物が溜まったものを真珠腫といいます。鼓室内の耳小骨などを破壊しながら進行していきます。
治りにくい中耳炎のことを総称して難治性中耳炎と言いますが、その中のひとつが真珠腫性中耳炎です。

症状

汚い耳だれや難聴でみつかることが多いです。進行するとめまいや顔面神経麻痺などをおこすこともあり注意が必要です。

治療

基本的に手術治療による真珠腫の摘出とされていますが、症状が軽度、患者様が高齢という場合は、保存的治療(炎症を抑える など)による経過観察を行います。

気をつけること

幼少期に急性中耳炎や滲出性中耳炎を繰り返している方がなりやすい病気です。耳だれや難聴があれば耳鼻科を受診しましょう。
また手術で真珠腫を摘出したあとも再発がないか、定期的に通院が必要です。

内耳で発生する主な疾患

突発性難聴とは

原因

これといった前兆もなく、片側の耳で突然起きる原因不明の難聴です。原因については、特定されていませんが、何らかのウイルス(ムンプス、単純ヘルペス など)の感染、循環障害(血管が攣縮 など)といったことが考えられています。

症状

突然、片耳が聞こえにくくなります。耳鳴りやめまいが同時におきることもあります。原因のある聴神経腫瘍や外リンパ漏、ストレスや不眠が原因といわれている急性低音障害型感音難聴ではないか確認することが重要です。

治療

できるだけ早急にステロイドの内服治療を行います。そのほかにも、血管拡張薬やビタミン製剤を併用します。高圧酸素療法も選択肢のひとつですが、専門施設への紹介が必要です。

気をつけること

治療が遅れると予後は不良となることが多いので、速やかな治療が望まれます。そのため、難聴や耳鳴りなどの症状がみられたらお早めにご受診ください。ただし診断には聴力検査が必要なため、夜間救急病院ではなく日中に耳鼻科を受診しましょう。

急性低音障害型感音難聴とは

原因

突発性難聴と比べると低い音(500HZ以下)のみの難聴で、内耳のむくみが原因といわれています。若年女性に多く、寝不足や脱水、運動不足などでおこりやすいです。

症状

耳のつまった感じや耳鳴りなどが症状です。

治療

むくみをとるための利尿薬や漢方薬に加え、内耳の機能を改善させるためにビタミン剤や循環改善薬も併用します。難聴の程度によってステロイドの内服治療も行います。

気をつけること

30%程度で再発するといわれています。十分な睡眠と水分摂取、ウォーキングなどの有酸素運動が再発予防につながるといわれているので、体調管理に気をつけましょう。

加齢性難聴(老人性難聴)とは

原因

加齢と共に進行していく難聴です。高い音から徐々に聞こえにくくなります。進行すると中・低音域など全ての音域で難聴がみられるほか、語音明瞭度(言葉を聞き分ける力)も低下していきます。原因については、内耳にある蝸牛もしくは、らせん神経節などの加齢による変化などが挙げられます。

症状

両方の耳の聞こえにくさや耳鳴りなどの症状がみられます。

治療

難聴の症状があれば、他の病気の可能性の有無も調べる必要があるので検査を行います。主に純音聴力検査や語音聴力検査をしていき、両側ともに高音での感音難聴を認める場合に加齢性難聴が考えられます。治療に関してですが、程度の差こそあれ、60歳を過ぎる頃には、多くの方は高音域から聞き取りにくくなっていきます。この場合、薬物療法や手術療法で改善することはなく、日常会話に不自由するようであれば補聴器を作成していきます。

気をつけること

難聴を認め補聴器を作成し、最適な使用感を得るまでに補聴器を何度か調節する必要があります。補聴器外来で調節していきましょう。

音響外傷とは

原因

爆発音や工事音、ライブ会場などで発生する強大な音によって、難聴や耳鳴り、耳閉塞感などがみられている状態を音響外傷と言います。その際に鼓膜損傷や外リンパ瘻がみられていると、耳の痛みやめまいが現れるようになります。この場合、片側の耳で起こることもあれば両側で起きることもあります。

症状

難聴、耳鳴り、耳閉感、めまい

治療

薬物療法が中心で、ステロイドを投与するほか、ビタミン製剤や循環改善薬を使用することもあります。

気をつけること

放置が続けば、聴力が低下したままになってしまうこともあります。これらの症状があれば、速やかに耳鼻科を受診しましょう。

聴神経腫瘍とは

原因

神経細胞の軸索を取り囲むシュワン細胞が腫瘍化し発生します。
内耳神経の中でも前庭神経に発生しやすいとされる良性腫瘍(脳腫瘍の一種)によって聞こえにくさや耳鳴り、めまいが引き起こされることがあります。

症状

発生間もない頃は、片側の耳に耳鳴りや難聴といった症状がみられます。それでも腫瘍が大きくなれば、顔面の感覚障害や、めまい、顔面神経麻痺の症状などもみられるようになります。難聴については、腫瘍が大きくなることで蝸牛神経を圧迫するなどして起きると言われています。

治療

腫瘍が小さく、これといった症状がなければ経過観察となります。腫瘍の大きさによって放射線療法や手術療法の適応になります。

気をつけること

無症状の方でも脳ドックによって発見されることもあります。腫瘍は年間1mm程度と増大するといわれており、比較的ゆっくりです。小さな場合も定期的なMRIを行っていきましょう。

耳管で発生する主な病気

耳管狭窄症とは

原因

耳管とは、中耳にある鼓室と咽頭鼻部との間をつないでいる管のことを言います。この耳管が常に閉塞してしまっている場合を耳管狭窄症と言います。
通常であれば、あくびをする、物を飲み込む(嚥下)といったことで耳管は開放されるようになるのですが、風邪やアレルギー性鼻炎により耳管粘膜がむくんだり、アデノイド増殖症、上咽頭腫瘍といった疾患で耳管の出口が塞がることで生じます。

症状

耳がふさがった感じ、水が入ったような感じなど

治療

原因疾患があれば、その治療を優先します。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎があればネブライザー治療や内服治療。アデノイド増殖が原因であれば手術により切除します。

気をつけること

耳管狭窄症は、乳幼児や高齢者に起きやすく、放置が続けば滲出性中耳炎を起こすこともあるのでお早めにご受診ください。

耳管開放症とは

原因

耳管が閉じられることなく、常に開放された状態にある場合を言います。急激な体重の減少、運動後の脱水状態、透析、加齢、妊娠中やピル(経口避妊薬)服用時などに起きやすいとされています。

症状

耳の閉塞感や自分が発する声が大きく響く、呼吸音の聴取といったものですが、立位や坐位の体位から臥位や前屈の状態になるとこれらの症状は軽減されるようになります。

治療

基本は保存療法になります。この場合、生理食塩水の点鼻、漢方薬の内服などが行われます。

気をつけること

鼻をすすることで症状が落ち着くことがあります。これは鼻をすすることで耳管・鼓室内を陰圧にして耳管を無理やり閉じている状態です。このような鼻すすりが真珠腫性中耳炎の原因となるといわれています。鼻をすすることはやめましょう。

耳たぶでみられる主な病気

耳介軟骨膜炎とは

原因

耳介とは、外から見える耳の部分などのことを言い、耳たぶなども含まれます。これらは軟骨と呼ばれる部位でできています。主にピアスの穴、虫刺され、打撲などによるケガなどから細菌感染するなどして、耳介に炎症が起きている状態が耳介軟骨膜炎です。

症状

耳の腫れ、発赤、痛みといったものがみられます。

治療

抗菌薬の使用

気をつけること

症状が進行すると耳が変形することもあります。症状があれば早めに耳鼻科を受診しましょう。

耳介血腫とは

原因

耳が擦れる、あるいはぶつけるなどしやすいスポーツ(レスリング、柔道、相撲、ラグビー など)によって、耳介(耳の上側の皮下)に血が溜まってしまい、まるでこぶのように盛り上がって変形している状態を耳介血腫と言います。

症状

耳がこぶのように腫れている

治療

溜まってしまった血を針などで速やかに抜くようにしますが、それでも血が溜まってしまうことがよくあります。皮膚切開をして血種を除去し、患部を圧迫固定することもあります。

気をつけること

そのまま放置するとカリフラワーのように耳介が変形します。耳がこすれやすいスポーツをする際はイヤーガードをつけるなどの予防をしましょう。

白金高輪耳鼻咽喉科クリニック
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耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科・アレルギー科
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