重症花粉症治療 ゾレアについて

ゾレア®とは、季節性アレルギー性鼻炎(いわゆる花粉症)のうち、既存の治療で効果が十分にみられなかった重症または最重症の「スギ花粉症」の方に限って、2020年より保険適応にて、12歳以上で行うことができるようになった治療法です。

2月~5月の期間限定で、抗IgE抗体オマリズマブ(商品名ゾレア®)を皮下注射するもので、従来の内服薬では鼻炎症状が治まらなかったり、抗ヒスタミン薬による眠気などの副作用が強く、より強力なものを使用できなかったりといった場合に、ご検討されることをお勧めしています。

毎年、重いスギ花粉症で悩まれている患者さまにとって、症状の改善が期待できる可能性があります。一度ご受診いただき、血液検査等の各種検査を行って、ゾレア®による治療が可能かどうかや、スケジュール、費用等についてご確認ください。

抗IgE抗体治療とは~従来の治療法との違い

花粉症のアレルギー反応がおこるしくみについて

季節性アレルギー性鼻炎でお悩みの患者さまの体内には、「IgE」というたんぱく質が多く存在していると考えられています。このIgEは、アレルギーの原因(アレルゲン/抗原)となる花粉を吸いこんで、鼻腔や粘膜に付着すると、免疫細胞の一種「Bリンパ球」が刺激され、活性化することで、産出されるものです。このIgEは、「マスト細胞(肥満細胞とも呼ばれます))という免疫細胞の表面に結合します。

季節性アレルギー性鼻炎は、このIgEがいわば橋渡し役となって発症します。IgEに花粉が付着するすると、それがスイッチとなり、マスト細胞が活性化して、ヒスタミンなどの化学物質を放出。それが神経や分泌物を出す鼻腺、血管などにあるヒスタミン受容体と結合することで、くしゃみや鼻水、鼻詰まり、目のかゆみなどを引き起こします。これがいわゆる「アレルギー反応」です。

従来の治療法

従来の花粉症の治療薬の主流は、マスト細胞が放出したヒスタミンが、受容体に結合することをブロックする「抗ヒスタミン薬」です。副作用として強い眠気が起こることが知られていましたが、現在では眠気の少ないものも開発され、多くの花粉症の方が内服し、一定の効果をあげています。しかし、アレルギー反応はヒスタミン以外の物質も多く関わっていると考えられており、十分な効果が期待できない患者さまもいらっしゃいます。

抗ヒスタミン薬以外の治療では、ステロイドの点鼻薬、同内服薬、ヒスタミンと同様にアレルギー反応を引き起こす化学物質である「ロイコトリエン」に対する抗ロイコトリエン薬などがあり、さらにアレルギー反応を伝える知覚神経の一部を手術によって切除する「後鼻神経切除術」や、「舌下免疫療法」などがあります。舌下免疫療法は、舌の下から錠剤によりアレルゲン(スギ花粉エキス)を継続的に体内に吸収させることで、体をアレルゲンに慣らし、体質改善を図って、発症する症状を和らげていく治療法です。

抗IgE抗体治療について

上記のような従来の治療法(薬物療法)と「抗IgE抗体治療 ゾレア®」の違いは、ゾレア®が一般の医薬品のように科学的に合成されたものではなく、生物から産生されるタンパク質などの物質を応用してつくられた「生物学的製剤」による「抗体製剤」であることです。

抗体製剤とは、アレルギーなどの病気の際に、生体内で生じる化学反応の連鎖に関し、問題となる標的(この場合IgE)の分子にのみ結合するタンパク質(抗体)を薬として投与するものです。連鎖を引き起こす物質の産生や活性化をブロックすることで、病気の流れを止めるという治療法です。

病気に関わる物質(IgE)を狙って標的にするため、期待できる効果も高く、効果の持続時間が長いというメリットもあります。一方、製造過程が複雑なため、従来に比べ、薬価が高くなってしまったり、分子量が大きくなるため内服では吸収されにくく、注射での投与が必要になったりといったデメリットもあります。

抗IgE抗体「ゾレア®」とは~生物学製剤・ゾレアの仕組みについて

ゾレア®は、「オマリズマブ」という「抗IgE抗体」と呼ばれるタンパク質の商品名です。花粉症などのアレルギー疾患に重要なはたらきをしているIgE抗体を標的の分子として作用する抗体製剤で、今回、最重症スギ花粉症の治療薬として認可されました。患者さまの血液中の総IgE値(濃度)と体重から投与量が計算され、2週間もしくは4週間おきに、ゾレア®を1~4本、皮下注射にて投与します。

投与されたゾレア®には、IgEに結合することで、IgEがマスト細胞と結合できなくなるという効果があります。マスト細胞にIgEがくっつかないと、体内に侵入してくるアレルゲンはマスト細胞と結合できず、マスト細胞は活性化しないため、ヒスタミンなどの化学物質が放出されず、アレルギー反応が抑制されると考えられています。このような仕組みで、ゾレア®は、季節性アレルギー性鼻炎の改善を図ります。

重症花粉症とは~ゾレア治療の対象となる条件

ゾレア®の治療を受けるためには、ガイドライン上、「重症」「最重症」のスギ花粉症であり、既存治療で効果が不十分であった患者さまであることが条件となります。

「重症」「最重症」であること

「重症」「最重症」については、“鼻閉”と“くしゃみ”または”鼻漏(鼻水)”の程度によって判断されます。たとえば、「くしゃみまたは鼻をかむ回数が20〜11回」、もしくは「鼻づまりの程度が強く1日のうちかなりの時間を口呼吸で過ごしている」という方は、「重症」と分類され、「くしゃみまたは鼻をかむ回数が21回以上」、もしくは「1日中、完全に(鼻が)詰まっている」場合には、最重症の季節性アレルギー鼻炎と診断されます。

スギ花粉に陽性であること

また、季節性アレルギー性鼻炎のアレルゲンが、スギ花粉でなければ抗IgE抗体治療ができないため、アレルギー検査を行い、スギ花粉が陽性であることを確認します。アレルギー検査は血液検査で行い、アレルギーを起こすアレルゲン(花粉)を特定する「特異的IgE検査」と、 アレルギーの傾向をつかむための「総IgE検査」を実施します。

血液中のIgE抗体の種類と量を調べるのが「特異的IgE検査」です。これにより、どのアレルゲンに対して抗体をもっているか(反応しているか)がわかります。花粉などの環境アレルゲン以外にも、食物でのアレルゲンも確認できます。また血液中のすべての種類のIgE抗体の量を調べる「総IgE検査(非特異的IgE検査)」では、どのぐらいの程度のアレルギー体質なのかを推定することが可能です。

従来の治療法で効果がみられなかったこと

抗IgE抗体治療を行うに当たっては、その前にまず、季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)の既存治療を1週間以上行い、その効果が不十分であることを確認しなければなりません。

抗ヒスタミン内服薬やステロイドの点鼻薬の投与などの治療を行い、1週間後以降も、くしゃみや鼻水の症状、もしくは鼻詰まりの程度が、ガイドラインの重症分類において一定の基準を下回らなかった場合、“既存治療で効果不十分な季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)”と判断され、ゾレア®の治療の対象となります。

そのほかの条件

上記以外の条件としては、「12歳以上である」こと、「血清中総IgE濃度が30〜1,500IU/mL、 体重が20〜150kgの範囲にある」ことが挙げられます。また、妊娠している方、授乳中の方は、事前に必ず医師にご相談ください。

※以下のような場合、投与不可と判断されることがあります。

ゾレア®治療の流れ~スケジュールについて

ゾレア®による抗IgE抗体治療の開始に当たっては、次のようなステップおよびスケジュールを守る必要があります。

初回受診

初回の診療で、まず、これまでのスギ花粉によるアレルギー症状が、「重症」あるいは「最重症」であることを確認します。症状が他の病気(副鼻腔炎など)によるものでないことを確認するため、CT検査やファイバースコープ検査を行う場合もあります。

その後、既存治療として、抗ヒスタミン内服薬や点鼻薬等を処方いたします。この治療は、1週間以上続けていただきます。

2回目受診

2回目の受診の際に、ガイドラインに照らし合わせて、治療効果がみられなかったこと(不十分であること)を確認します。

「特異的IgE検査」および「総IgE検査」の血液検査を行います。数日後にその結果を受けて、ゾレア®の投与が可能かどうか、投与量と、投与間隔、自己負担額について決定します(ご相談のために、3回目のご来院をいただく場合もあります)。

3回目(もしくは4回目)受診

ゾレア®の注射を開始します。抗ヒスタミン薬を併用することもあり、その場合、抗ヒスタミン薬の処方を行います。

それ以降

治療は原則として、原因であるスギ花粉が飛散するシーズンに応じ、2週間または4週間ごとに注射による投与を行います。医療機関を受診していただき、1回75〜600mgを、皮下に注射します。ゾレア®は、すでに発症している症状がすぐに改善されるものではありません。他に処方されている薬に関しては、自己判断で減量や中止をせず、必ず医師にご相談ください。

ゾレア治療の注意点~投与後の副作用など

ゾレア®で見受けられる副作用として主なものに、注射した部位が赤くなったり、腫れたりするものです。また場合によっては、眠気でぼんやりしたり、めまいや疲労を感じたりすることがありますので、注射直後の車の運転や機械の操作などは控えるようにしてください。

また、以下のような症状が出た場合、全身にアレルギー症状が出る「アナフィラキシー」の可能性があります。ゾレア®投与後の注意に関しては、医師や看護師の指導に従い、症状が出た場合はすぐにお知らせください。

アナフィラキシーが疑われる症状

※ゾレア®が働きを抑制するIgEは、寄生虫感染に対する防御機能を持っています。治療中に寄生虫感染が高リスクの地域へ旅行する際は注意する必要があります。事前に医師にご相談ください。

料金について

ゾレア®は投与量・投与間隔は、初回投与前の血液検査による総IgE濃度および体重に基づき決定されるため、患者さまごとに異なります。それにより薬剤に関わる費用も、年齢・所得によって異なります。

ゾレア®治療は保険適用となります。目安となる自己負担額は薬剤費のみで以下のようになります。

上記以外に、受診、検査、同時に服用する抗ヒスタミン薬などに関わる費用がかかります。

■薬剤費の詳細はノバルティスのゾレア®のホームページからメニューの「医療費について」をご参照ください。

参考→ゾレア 季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)でお悩みの患者さまとご家族の方へ:ノバルティスファーマ

白金高輪耳鼻咽喉科クリニック
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院長
戸塚 大輔
診療科目
耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科・アレルギー科
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